能動的な長野トリップで未知の体験Vol.4 » Field Only

能動的な長野トリップで未知の体験Vol.4

しくじり登山で得た教訓と宝剣ブルー

登山ガイド目指してるやつが「しくじってどうするのよ」って声が聞こえてきそうなんですが、いやほんとにこれは準備不足と判断ミスによるしくじりなので、自戒の意味で書いておこうと思います。

ただ「しくじり」と言っても、自分が行動をするうえで撤退の線引きをしていたこと、能動的になり他の登山者とコミュニケーションを取ったことで得られたものがありますので、それは教訓として今後のガイド仕事に活かしていけると考えています。(前向き笑)

登山ルートを間違えて予定よりも行動時間が長くなり、ロープウェイの時間に間に合ってコーヒー飲んで落ち着いて・・・

登山計画で登る予定ではなかった宝剣岳に登頂して宝剣ブルーを望む。

登山計画

今回は通年営業している中央アルプス駒ヶ岳ロープウェイを使って千畳敷カールにいたり、中岳から木曽駒ヶ岳に至るルートの往復を計画していました。時間にして約4時間の登山です。

ロープウェイの駅から千畳敷カールに出る前には、しっかりと登山計画書を書き込んで提出し、ロープウェイの運行時間をチェックして、装備チェックを行って、天気の動きも確認して、ね。

選択をミスったのは登山ルートなんです。

それが、しくじりの末に6時間の登山になったんです。ヘトヘトです。

で、その原因となったことをそのまんまほったらかすと、また同じことをやらかしちゃうので、宿に戻ってからローメンを食べて笑(ここ大事)、今回の登山の「しくじり」の原因を考えてみました。

中央アルプス駒ヶ岳ロープウェイの出入口付近で登山計画書を記入して提出する。

しくじりの原因

今回のしくじりの原因ですが、カテゴリーを【経験】と【心理状態】に分けて考えてみます。

【経験】の部分を考えてみると。
『無雪期の木曽駒ヶ岳に登ったことがなかった。』
これは、登山道が出ている時期に登っていると、どこを登っていけばいいかというのは明確なので、まずイメージができます。
そのイメージがないなか、地図上であったり、見た感じだけで登ろうとすると、登山道がわからない残雪期ではルートを間違えたり、自分の実力以上の場所に至ることになると感じました。

【心理状態】の部分を考えてみると。
『登山者が少なくて、私が登る予定のルートには誰もいなくて、なんか不安になって、先行して登っている人たちのルートが正解だと思い込んでついていってしまった。』
これは、ほんとにやっちゃいけないんですが、不安なときって人が多くいる方に寄ってしまうんだろうなあって、改めて感じましたね。自分の判断も人に依存している。よくないわ〜こういう状態。
その人たちがどんなルートを歩くのかわからないのに「みんなで渡れば怖くない」的なやつですかね。どうしようもない「しくじり」です。
その不安はどこから来るのかと言ったら、経験なんだろうな、と痛感です。

この2つを考えたとき、私には実力、つまり残雪期の3000m近い山を登山する、という総合力が不足していたんだと感じました。

持ってる道具はいっちょ前ですよ・・・
使う側どうかってことですね・・・

ロープウェイに間に合ってよかったー

能動的にコミュニケーションを取りながら

木曽駒ヶ岳に向かって登り始めてしばらくして、とんでもない雪面の角度を経験することになります。付近にいる登山者はハーネスを装備した年配の男性3人グループと、バックカントリーの60代以上と思われる男性2人です。

風はほとんどなく、天気は快晴。
山肌は残雪がしっかりと残っていてところどころ前日の雨の影響か、アイスになっています。

クランポンはしっかりと刺さってくれるんですが、場所に寄ってはズルッと滑ってしまったりするので、ピッケルを使って3点支持をしながらゆっくりと確実に登って行きます。
千畳敷カールは引っかかるところがどこにもないので、一旦滑り始めたらどこまでも落ちていくような緊張の連続で、しかも角度がきついのですぐに息が上がってしまい、な環境です。

そんなときにロープウェイの駅からアナウンスが聞こえてきます。
「前日は滑落事故が多く発生しました。登山者の皆様は気をつけてください。(一部省略)」
周囲の方々と顔を合わせて「気をつけましょう」と声を掛け合い、少し距離を取って、直下もしくは直上にならないように配慮して・・・って言っても先行の方のトレースが固められて歩きやすいところもあるので、そこは状況判断の連続です。

ここから先がとんでもない傾斜になっている

バックカントリーの方々はこんな斜面を滑り降りるらしい・・・
もう落下だでこれ

登っている最中に見ている景色ですが、どうも地図で見ていた景色とは違っていて、再度地図でルートを確認すると、どうやら当初の予定と違っていて・・・もはや尾根まではもう少しのところ・・・一旦下りて登り返してる時間はないなあ、時すでに遅しこれはやっちまったぞと。

と、少し平たくなったところに3人グループの方が到着して、休憩を兼ねてレイヤー変更をされています。私もそこに至って少しの休憩と、その3人についてきてしまったので、登山ルートの確認をしようと。

私「木曽駒ヶ岳まで行くんですが、私登るの初めてで、あっちに行かないといけないところを、こっちに来ちゃって・・・ここを登り切って向こうに行くで大丈夫ですかね?」
男性「方向は合ってるけど、木曽駒に行くなら宝剣岳を超えないといけなくって、そこは岩稜ルートを抜けて行かないとダメだからプラス2時間から3時間ぐらいかかりますよ。」
私「そうなんですか。」
男性「私たちは訓練でロープ出しますけど、雪がだいぶ溶けてるんで、チェーンが出てると思うし、いけると思いますよ。」
私「じゃあいけるとこまで行ってみます。」

こんな感じで、そのグループのリーダーと思われる男性とコミュニケーションを取って、これからのことを考えて撤退ラインまでは行ってみよう、となったわけです。

さらにですが、バックカントリーの方々とも話をしたんですが、その方々が言うには、
「そこ登ったらさあ、極楽だから笑」
「登っちゃったら行きたくなっちゃうよきっと笑」
と。

で、尾根までしっかり登り切ると、この絶景です↓

ここは極楽平って名称のようです。
右下に見えるのがロープウェイの駅ですね。

写真では伝わりませんが、この尾根に出た瞬間、強い風が吹きつけてきて、登りながらホットになっていた体が一気に冷えていくことを感じました。
ですがこの眺望です笑
バックカントリーの方が「極楽だから」って言ってたのは間違いありませんでした笑

で、宝剣岳方向はしばらく尾根道だったので、行けるところまで行くことにしたんですが、岩稜ルートの入り口あたりでロープを準備しておられる男性3人グループとふたたび出逢い、そこからは行動を共にさせていただき・・・まあ私が勝手についていっただけなんですが、その3人の方が通ったルートを私があとからついていくってカタチで、宝剣岳山頂に至ります。

3人はロープで繋がっていて、お互いをビレイしながら移動されていました。私は単独なので、スリングで簡易のハーネスと命綱を作って、必要なところではそれらを使って岩稜ルートをクリアしていきました。

ここでは、自分自身が積極的に単独行の不安を取り除いたり、自分に必要な情報などを収集しながら、どこまで行けるのかを積み上げていたように感じます。

まったくコミュニケーションを取らず、ひとりでウロウロしていたら、目的を達成することができないばかりか、副産物に恵まれることもなかったんじゃないかって、今は感じています。

なので、能動的であることというのは、1歩先、もう1歩先に行くためには必要なことだなあって。

宝剣岳山頂付近の岩稜ルート

目的達成

宝剣岳をクリアすると、いよいよ木曽駒ヶ岳に向かうルートなんですが、ここで遅めの昼食タイム・・・といきたいところ、なにせ当初の予定よりも時間が掛かっているので、目的を達成することができるか不安になってきます。

で、聞いて見ると往復3時間くらいだからギリギリなんじゃない?ということ・・・現在時刻13時30分、ロープウェイの運行時間は17時が最終で30分おきだから・・・おーこれはほんとに少し遅くなったら最終便だわ。で、過ぎたらアウト・・・

この山が初めてじゃなければ時間が読めるんだけど、初めてだから自分が歩いてどれくらい掛かるかわからないし・・・でも、迷ってるヒマはねえ。

よっしゃ行ってみよう!
木曽駒ヶ岳まで・・・と思ったらその手前にあるじゃない、中岳が・・・
んじゃ時間設定して、それを超えたらどんだけあとちょっとでも撤退するってことで。
よっしゃ行ってみよう!
これ独り言ですけど笑

この男性グループのおかげで宝剣岳をクリアすることができました。感謝

ということで、せっせせっせと歩いて歩いてザグザグザラメになった雪を踏みしめて、上がった呼吸を口をすぼめて整えて、まずは中岳山頂に到着です。
そこにはちょうど下山中の若い男女がおられたので、あとどれくらいかを聞いてみると、「木曽駒の山頂まであと30分くらい」だと、そりゃもう俄然やる気に満ちてきましたね笑

ただ、ロープウェイ、ギリギリですねって言葉も一緒に頂戴しましたので・・・

よっしゃ行ってみよう!笑

中岳の向こうに見えるのが目的の木曽駒ヶ岳山頂です。

そしてそして、ようやく到着しました笑、目的の木曽駒ヶ岳山頂です。
そうです。独占なんです。
そりゃそうです。ロープウェイの時間ギリギリなんだから。ね。
しかしまあ綺麗なところです。
広々としていて眺望がよく、周囲のアルプス山脈もよく見えています。
風が黄砂を引き連れてくるって予報でしたが、富士山も見えるくらいの視界良好で、もう言葉になりません笑

なんですが、休憩をボチボチしている間もなく、下山開始です。
ね、こういうとこですよ。
登山ルートを間違えなければ、ここでもう少しお茶することだってできたはずなんです(泣)

次回、緑の季節に持ち越しですね(それは楽しみ)

木曽駒ブルーを独占

千畳敷カールは後ろ向きで

下山を開始した私は程なく千畳敷カールの直上に出ることができました。
時間は14時30分
ここまでは想定よりも早く行動することができています。
んが、この角度はヤバすぎるな。
登るときはいいけど、これ下るって相当時間かかるでこれ。(私の実力では)

で、恐る恐る下りはじめたんですが、これ、前向きに下るの相当怖いです。

トレースを見てみると斜め下に歩く感じでしょうか、ジグザグですね。
ジーグザグザグジグザグジグザグひとりきーりー♪ってね、そんな悠長に歌えないぐらいの角度なので、緊張の連続ですよ。ほんとに。笑えないくらいのひとりきり、じゃなくて、角度です。

山写真アルアル
写真じゃほぼ伝わらないのが角度(斜面)


そして、途中からですが、前向きで下りてたら怖いし時間かかるし、なんか方法ないかなあと。

で、考えたのが、後ろ向きならどうなんだと。登るときのような動きの逆で下りてみたらどうなんだと。これに挑戦してみた結果がけっこう良くて、シャリンシャリン下りることができるわけです。

後ろ向きなので、つま先が雪面に向いてますよね。なので、下りながらでも、クランポンの先の爪をしっかりと雪面に打ち込むことができて、ズレることはあるんですが、一気にザーっと落ちるようなことはありません。

この方法でかなりスピードアップできたので、中岳で出逢った男女に千畳敷カールの底あたりで追いつくことができ、ロープウェイの駅にも15時ごろ到着と、予定していた時刻より早く着くことができたわけです。(ほんとよかった安堵)

下るだけのつまらないものですが、後ろ向きに下りている様子です笑

プロまでの道程

私がこれから目指すのは登山のプロですが、こういう経験をして思うのは、登山のプロの道程は果てしなく遠いなあってことです。
ただ、これは私が目指した道です。
この道をしっかりと踏みしめながら少しずつでも着実に進み、平時のガイディングだけでなく、有事にも適切に対応できるよう、知識・技術を身につけて経験を積み重ね、皆さんの前にプロとして帰ってくることができるよう、がんばります!!!

明日からスタートです!

これからも応援をよろしくお願いします!!!

このブログの主人の正体 整備士→消防士→登山ガイド・・・変態中

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松本 和志 登山ガイド / 男性

 登山ガイド(JMGA登山ガイドステージII)  国際マウンテンリーダー(IML)ハイキング・トレッキングガイド  元消防士・勤続21年(各種災害出動経験2500件以上) 挑戦があるから生きている!  これからは、登山に挑戦する人との共感、共有を通じ、一緒に笑顔になれる人生を送りたいです。  このブログでは、私の挑戦、失敗や成功、喜怒哀楽を書き綴っています。私の挑戦が誰かの何かになれば幸いです。

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